五月に入ると、空に鯉のぼりが見られるようになります。風を受けて身をひるがえす姿は、この時期ならではの風景のひとつです。
鯉のぼりは、紙や布に鯉の姿を描いた吹流しを、竿の先に取り付けて高く掲げるものです。竿の頂(いただき)には、矢羽根(やばね)を放射状に配した「矢車」を据えることもあり、風を受けて回るその動きも、鯉の動きとともにこの時期の景色をつくります。
江戸時代中期には、端午の節句に武家は旗指物(はたさしもの)を門口(かどぐち)に立て、町人は子の立身出世を願って鯉のぼりを上げるようになったとされます。はじめは真鯉(まごい)のみでしたが、明治期に緋鯉(ひごい)、昭和期には子鯉(こごい)が加わり、現在のかたちへと整っていきました。
鯉はもともと、文様としても用いられてきた題材です。流れに逆らってさかのぼる魚として、中国の故事「登竜門」と結びつき、上へ向かう力を象徴する存在として捉えられてきました。その姿は器物や染織の中で図案化され、力強いかたちとして定着しています。
鯉のぼりは、そのかたちを空へ移したものです。水中の動きが風の中に置き換えられ、流れに向かう姿がそのまま表れています。
端午の節句を前にしたこのころ、鯉のぼりは、願いを受け継ぎながら風の中で空を泳いでいます。
撮影:つた / PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
『茶道具に見る 日本の文様と意匠』淡交社
『茶の湯をはじめる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 4級』淡交社
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