
ふらここ、この可愛らしい読み名は「ブランコ」のこと。いまでは一年を通して公園で見かける遊具ですが、歳時記では春の季語とされています。
一年中使われるものが、なぜ特定の季節に結びつくのか。自然や気象であれば理解しやすいものの、人工物の場合、その背景には習俗や歴史が関係していることが少なくありません。
「ふらここ」の起源は、中国で「鞦韆(しゅうせん)」と呼ばれた遊びにさかのぼります。これは、木の枝や横木から二本の縄を垂らし、その先に板を渡して腰を掛ける、いまのブランコに近い形のものでした。人が座り、足で地面を蹴って前後に揺れる仕組みで、もともとは子孫繁栄や農作物の豊穣を祈る儀礼に用いられ、春の節目に女性がこれに乗る風習がありました。揺れながら空へ近づくその動きには、天と地をつなぐ意味が重ねられていたといわれます。
こうした背景から、漢詩では春の景物としてたびたび詠まれます。北宋の詩人・蘇軾の詩『春夜』にある
「春宵一刻値千金 花有清香月有陰(しゅんしょういっこくあたいせんきん はなにせいこうありつきにかげあり)」
は、春の夜のひとときの豊かさを表す句として知られています。その結びには
「鞦韆院落夜沈沈(しゅうせんいんらくよるちんちん)」
とあり、人の気配の絶えた中庭に、静かにぶら下がる「ふらここ」の姿が描かれています。
日本でもこの影響を受けて、中国で詠まれてきた「鞦韆」の情景が伝わり、「ふらここ」「ゆさはり」などの名で呼ばれるようになり、春の景として定着しました。現在のブランコは明治以降に導入された西洋式のものですが、季語としての「ふらここ」には、古い習俗の記憶が残されています。
撮影:M-Picking / PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
諸田龍美『茶席からひろがる漢詩の世界』淡交社(品切れ)
『新版 茶道大辞典』淡交社(絶版)
※参考文献のタイトルをクリックすると、【淡交社 本のオンラインショップ】に移動します。
※最新の価格・在庫状況はオンラインショップにてご確認ください。
