
春になると、野にやわらかな緑が広がりはじめます。その中でも、独特の香りとともに思い起こされるのが「蓬(よもぎ)」です。道ばたや土手に自生し、古くから身近な春の野草として親しまれてきました。
若い芽はやわらかく、触れるとほのかに香りが立ちます。この香りは、青さの中にやわらぎを含んでいて、春の訪れを実感させてくれます。素朴でありながら、その存在をはっきりと印象に残す野草といえるでしょう。
蓬は食用としてもなじみ深く、とくに草餅の材料として用いられます。やわらかな餅に練り込まれた蓬の香りは、季節の味として広く親しまれてきました。旬ならではの新鮮な香りや味わいを楽しめるのも、この時期ならではの魅力です。お稽古の席で草餅が出されることもあり、そうしたひとときもまた、春を感じる楽しみの一つといえます。
また、蓬は古くから薬草としても知られ、止血や胃の働きを整えるものとして用いられてきたとされます。端午の節句には、邪気を払うものとして軒に挿したり、湯に入れたりする習わしもあり、暮らしの中で季節を感じる一つの手がかりとして、さまざまな形で用いられてきました。
春の野草は多くありますが、香りで印象に残るものは限られています。蓬は、目に見える色だけでなく、香りによって春を伝える野草といえます。
撮影:そよかぜ / PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
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