
春の野に目を向けると、草のあいだから細い茎がまっすぐに伸びているのが見えます。これが土筆(つくし)です。
地上に現れる姿は素朴ですが、その下では地下茎が広がり、同じ場所に群れて出てくるのが特徴です。
土筆は、スギナの胞子茎(ほうしけい)にあたります。春先になるとまず土筆が現れ、そのあとに緑のスギナが伸びていきます。見た目は別の植物のようですが、同じ地下でつながっています。
形に目を向けると、その姿はどこか愛嬌があります。まっすぐに立つ細い茎の先に、やや丸みを帯びた穂先がのり、全体として小さな筆のようなかたちをしています。節ごとに付く袴は規則正しく重なり、淡い茶色のグラデーションをつくります。一本一本は細く頼りない印象ですが、群れて出ることで、春の野にやわらかな景色を描きます。
穂先には胞子を飛ばすための仕組みがあり、成熟すると先端が開いて中から細かな胞子が散ります。この時期のわずかな変化の中で、次の世代へとつながる営みが進んでいるのです。
また土筆は食材としても古くから親しまれ、袴を取り除いて下処理をしたうえで、卵とじや和え物などに用いられます。ほろ苦さの中にかすかな甘みがあり、この時期の家庭料理を代表する春の味といえます。
花のような華やかさはないが、季節の移ろいを知らせる存在。草が伸び野の景色が整いはじめるころ、その足もとに現れるかたちとして、土筆は春の進みを静かに伝えています。
撮影:スミスジョージ / PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
『淡交新書 茶の湯の銘 季節のことば』淡交社
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