薫風|初夏の風の名

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五月に入るころ、風の質が変わってきます。日差しはすでに強さを帯びながらも、吹き抜ける風にはまだ軽さがあり、肌に触れたときの感触にも春のやわらぎが残っています。この時期の風を「薫風(くんぷう)」といいます。

薫風とは、新緑のあいだを通り抜けることで、草木の香りを含んだ風のことを指します。青葉の匂い、湿り気を帯びた土の気配……そうしたものが混じり合い、風そのものに季節の移ろいが感じられるようになります。

この語は中国の詩に由来し、「薫風自南来(くんぷう みなみよりきたる)」という句がよく知られています。茶席の掛物にも用いられるこの句は、南から吹くあたたかな風が草木の香りを運んでくる情景を表したもので、句として広く伝わる中で、日本では初夏の季節感を表す言葉として定着しました。

暦の上では、立夏を過ぎると夏に入りますが、実際の気候はまだ移行の途中にあります。強い日差しと、まだ軽やかな風とが同時に存在するこの時期ならではの感覚が、薫風という言葉に凝縮されています。

茶席においても、この季節は風の扱いが変わってきます。風炉の季節に入ることで、暑さを和らげる意識が生まれ、室内のしつらえもまた、季節に応じて移っていきます。

目に見えない風に、香りや温度の違いを感じ取ること。薫風という言葉は、そうした感覚の変化に気づくための手がかりとして、今も使われています。

 

撮影:mareliy-art / PIXTA

参考文献

茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
淡交新書 茶の湯の銘 季節のことば』淡交社
茶の湯をまなぶ本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 1級・2級』淡交社

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