甘鯛(あまだい)
甘鯛は、八月から十月頃に旬を迎える白身魚です。やわらかな身にはほんのりとした甘みがあり、上品な味わいを持つことから、高級食材として珍重されています。
名前に「鯛」とありますが、真鯛とは異なるアマダイ科の魚です。関西では「ぐじ」の名でも親しまれ、とくに福井県の若狭湾で獲れるものは「若狭ぐじ」と呼ばれ、京都の料亭などで大切に扱われてきました。
焼物や煮物のほか、酒蒸しや蕪蒸し、昆布締め、西京漬けなど、さまざまな料理に用いられ、茶懐石でもよく用いられます。なかでも、背開きにして一塩したぐじを、鱗をつけたまま焼き上げる「若狭焼き」は代表的な料理の一つ。鱗の香ばしさと、ふっくらとしたやわらかな身を一緒に味わうことができます。

撮影:omizu /PIXTA
ガザミ
ガザミは、一般に「ワタリガニ」の名で親しまれている蟹の仲間です。菱形の甲羅を持ち、一番後ろの脚が櫂のように平たくなっているのが特徴で、この脚を使って海中を泳ぎます。
大阪では九月から十二月頃に旬を迎えます。砂泥質の内湾である大阪湾は、ガザミの餌となる生き物が多く、古くから盛んに漁獲されてきました。とくに泉州地方では馴染み深く、秋の岸和田祭りには欠かせないごちそう。祭りになると家族や親戚が集まり、塩茹でにしたガザミを囲むのが秋の風物詩となっています。
また、愛媛県の燧灘(ひうちなだ)もガザミの好漁場として知られています。西条祭りや新居浜太鼓祭りなどの秋祭りでは、家族や客人に振る舞うごちそうとしてガザミが大切にされてきました。
脚の肉はそれほど多くありませんが、身はなめらかな食感で甘みがあり、蟹味噌にも濃厚な旨味があります。塩茹でをはじめ、蒸し物や汁物、鍋物などでも味わわれます。
旬のガザミを大勢で囲む秋祭りの食卓。ガザミは、その味わいとともに各地の秋の風景にも深く結びついてきた食材です。

撮影:うまいもん / PIXTA
栗(くり)
栗は、九月頃から旬を迎える、秋の実りを代表する木の実です。日本では古くから食べられており、縄文時代の遺跡からもその痕跡が見つかっています。
近畿地方を中心に、九月九日の重陽の節句を「栗節供」と呼び、栗を贈ったり、栗ご飯を炊いたりする風習がありました。また、旧暦九月十三日の十三夜は、栗を供えることから「栗名月」とも呼ばれます。
栗の名産地として古くから知られているのが丹波地方です。「丹波栗」は特定の品種ではなく、かつての丹波国、現在の京都府中部などで産出される栗の総称。平安時代の『延喜式』には丹波国から栗を貢進した記録が残り、古くからその品質が高く評価されてきました。大粒で、味や香りがよく、粘りのある丹波栗は、現在も京菓子などに用いられています。
この時季、茶の湯の菓子にも栗は欠かせません。栗を用いた菓子は数多くありますが、なかでも秋らしいのが「栗きんとん」。茹でた栗を裏ごしして砂糖などを加え、茶巾で絞って栗の形に仕上げた、栗そのものの風味を楽しむ菓子です。
また、栗きんとんで知られるのが岐阜県中津川市です。江戸時代後期頃から茶の湯が盛んになったこの地では、お茶に合う菓子を求めて菓子職人たちが腕を競ったといいます。もともと家庭で茹でた栗を茶巾で絞って食べていたものが現在の栗きんとんの原形とされ、今では「栗きんとん発祥の地」として知られています。
九月になると、市内の菓子店にはそれぞれの栗きんとんが並びます。複数の店の味を楽しめる「栗きんとんめぐり」も行われるなど、栗きんとんは中津川の秋を代表する味覚として、町の大きな魅力となっています。
栗ご飯から茶の湯の菓子まで、さまざまな形で味わわれてきた栗。新栗が出回るこの時季、その素朴な甘みと香りに秋の訪れを感じてみてはいかがでしょうか。

撮影:shige hattori /PIXTA
無花果(いちじく)
無花果は、夏から秋にかけて旬を迎える果実です。やわらかな果肉と、口の中で感じる小さな粒の食感が特徴です。
世界でも古くから栽培されてきた果物の一つとされ、古代エジプトの壁画にもその姿が描かれています。日本には江戸時代に伝わったとされ、古くから親しまれてきました。
「無花果」と書くのは、外から見ると花を咲かせずに実がなるように見えるためです。実際には、私たちが果実と思っている部分の内側に小さな花がたくさん咲いています。
熟した無花果は、そのねっとりとした食感とやさしい甘みが特徴で、そのまま味わうほか、甘露煮やジャムなどに加工されます。また、胡麻和えや白和えなど、果実の甘みを生かした料理に用いられることもあります。
やわらかな実を割ると現れる鮮やかな色合いも美しく、夏から秋へと移ろう季節を感じさせる果実です。

撮影:shizuku /PIXTA
落花生(らっかせい)
落花生は、秋に収穫期を迎える豆の仲間です。「ピーナッツ」とも呼ばれるため木の実のように思われがちですが、実際には大豆やえんどうなどと同じマメ科の植物です。
落花生は花が咲いたあと、花の付け根から地面へ向かって柄を伸ばし、土の中で実を育てます。花が落ちたあとに実が生まれるように見えることから、「落花生」の名がつけられました。
原産地は南アメリカで、日本には江戸時代初期に伝わったと考えられています。当初は長崎などで栽培され、中国風の料理にも用いられていました。本格的に栽培が広がったのは明治時代以降で、現在では千葉県が代表的な産地として知られています。
普段は乾燥させて焙煎したものを食べることが多い落花生ですが、秋の収穫期には掘りたての「生落花生」も出回ります。なかでも千葉県で育成された「おおまさり」は大粒で、茹で落花生にも適した品種として知られています。
生落花生を殻ごと塩茹でにすると、焙煎したものとは異なる、やわらかくほくほくとした食感とやさしい甘みを楽しむことができます。一年を通して身近な落花生にも、収穫したばかりの新豆を味わえる、この時季ならではの旬があります。

撮影: alexgrec / PIXTA
参考文献
『日本を味わう 366日の旬のもの図鑑』淡交社
『淡交テキスト 辻留 季節の点心をつくる』淡交社(絶版)
福井県「御食国の美しき至宝『若狭ぐじ』」
全国漁業協同組合連合会「岸和田祭りのわたりがに(ガザミ)」
全国漁業協同組合連合会「燧灘のガザミ」
京都府「丹波くり(たんばくり)」
中津川観光協会「栗のまち中津川」
中津川市「中津川 栗きんとん」
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