
春の終わりから初夏にかけて、雄鹿(おじか)は古い角を落とします。これを「落角(らっかく)」といい、毎年くり返される鹿の生理的な変化の一つです。立派に見える角も一生そのままではなく、役目を終えると自然に外れ、やがて新しい角が伸びはじめます。
鹿の角は、秋の繁殖期に向けて毎年生え変わります。冬を越えた角は春になると根元がゆるみ、ある時ふっと落ちます。片方ずつ時期がずれることもあり、野山では片角の鹿が見られることもあります。
落ちた角は、季節の移ろいを知らせる「しるし」として意識されてきました。奈良の鹿はとくに広く知られ、春になると角を落とした鹿の姿が見られます。月明かりの下、角を失った鹿が静かに立つ光景は、どこかひっそりとした気配を帯びています。
角落ちて淋しき奈良の月夜哉
― 正岡子規
芽吹きや花だけでなく、動物のからだにも季節はあらわれます。「落し角」ということばには、春が深まり、次の季節へ移っていくころの静かな変化がよく出ています。
撮影:いってき / PIXTA
参考文献
『淡交新書 茶の湯の銘 季節のことば』淡交社
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
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