
十一月に入り、茶の湯の世界では風炉から炉へと季節が移ります。それに合わせて、茶席に生ける花も風炉の花から炉の花へと変わっていきます。なかでも椿(つばき)は、炉の季節を代表する茶花のひとつ。寒さが深まるころから春にかけて、茶席に彩りを添えてくれます。
椿はツバキ科ツバキ属の常緑樹で、日本にも古くから自生しています。厚みと光沢のある葉が特徴で、赤や白、桃色などの花を咲かせます。白い花を咲かせる白玉椿、淡い桃色の曙椿、小ぶりで控えめな侘助椿など、茶花として親しまれる品種も数多くあります。また、花の形も一重咲きや八重咲きなどさまざまで、椿と一口に言っても品種によってその特徴は千差万別です。
実は、私たちが日ごろ飲んでいるお茶の原料となるチャノキも、椿と同じツバキ科ツバキ属の植物です。茶碗の中のお茶と、茶席に生けられる椿が、植物としては同じ仲間であるというのも面白いところです。
椿の特徴のひとつに、花の散り方があります。多くの椿は、花びらが一枚ずつ散るのではなく、花が「ぽとり」と落ちます。よく似た山茶花(さざんか)は、花びらが一枚ずつ散ることが多く、両者を見分ける手がかりにもなります。
この椿の散り方にまつわる、千利休の孫・千宗旦の逸話が伝わっています。
ある日、宗旦と親交のあった京都・千本の安居院正安寺の和尚が、寺の庭に咲いた「妙蓮寺」という椿の一枝を、小僧に託して宗旦のもとへ届けさせました。ところが、その道中で椿の花が落ちてしまいます。困った小僧は、花のない枝と落ちた花をそのまま宗旦に差し出し、詫びました。
すると宗旦は、小僧をとがめることなく、茶室「今日庵」に招き入れました。そして床の掛物を外し、利休自作の竹花入「園城寺」を掛け、そこに花の落ちた枝を生け、その下に落ちた椿の花を置いたのです。宗旦は小僧に薄茶を点ててもてなし、互いに楽しんだといいます。
落ちた花を粗相として責めるのではなく、その姿を生かして茶席を整え、小僧をもてなした宗旦。そこには、ありのままの姿を受け入れる美意識と、相手を思いやる心が感じられます。
撮影: Rhetorica / PIXTA(ピクスタ)
参考文献・参考サイト
横田八重美『茶の湯の逸話』(淡交社)
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