若宗匠、作家と語り合う
第3回|千 宗史×橋村萬象

『月刊 淡交』2023年新年号から2024年12月号まで連載された「若宗匠、作家と語り合う」。本シリーズでは、若宗匠が茶道具を手掛ける工芸作家と、「使い手」と「作り手」、それぞれの立場から茶道具やものづくりについて語り合います。

第三回は、木具師・橋村萬象(はしむらばんしょう)さん。一枚一枚、硬さも癖も異なる木を見極め、用途を定める「木取り」。機械に頼らず、手仕事で木の個性を生かしていくものづくり。そして、代々携わってきた有職の仕事に息づく「しきたり」を、時代に合わせて受け継いでいくこと――。

一つの木から茶道具が生まれるまで、その手仕事の奥にある橋村さんの考えを、若宗匠とともにたどります。

本記事は、『淡交』2023年3月号に掲載された記事をもとに、Web掲載にあたり再編集したものです。掲載当時、誌面では伝えきれなかった新たな写真も交えながら、その対話をあらためてお届けします。[毎月1回、全24回を順次公開予定]

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一章 木具師の仕事

 

千宗史若宗匠(以下、千) 本日はお越し頂きありがとうございます。

 

橋村萬象(以下、橋村) こちらこそ、誠にありがとうございます。どうぞ宜しくお願い致します。

 

千  早速ですが、まずはお茶を一服……。

 

 

千  橋村さんの工房は兜門(かぶともん)から目と鼻の先なのに、なかなかお会いしてお話をする機会がありませんでしたね。

 

橋村 本日、貴重な機会を頂戴して感謝しております。

 

千  本日は橋村さんをお招きするということで結界(けっかい)には家元好みの雪月花結界を使いました。

 

 

橋村 恐れ入ります。この結界は曲(まげ)、折撓(おりため)、置上(おきあげ)という当家の特徴を全て汲み取って頂きまして出来たものです。

 

千  家元と相談しながら作っていかれたそうで。

 

橋村 そうですね。イメージや、各部分の絵柄、色など、細やかにご意見を頂戴しました。雪、月、花の絵柄の配置や、それぞれの色調など、私一人の考えではこのような仕上がりにはならなかったと思っています。

 

 

千  好み物(このみもの)は家元の意見を基に作り上げていくんだと思いますが、一般の方からの依頼や要望によって作品を作ることもあるのですか。

 

橋村 最近は個展で作品を発表することが主体になっていますが、その際に、ご所蔵の道具に合わせた寸法とか、茶会の趣向に合わせた絵付けなどについて別注のご相談を頂く機会がありますね。例えば、今日お持ちした水指(みずさし)や莨盆(たばこぼん)は立礼用に適うようにとのご要望に応じて提案させて頂いたもので、少し小ぶりになっています。

 

千  かわいいサイズ感ですね。

 

 

橋村 立礼棚に置いて頂くにはこのくらい背が低いものが使いやすいようにも思いますが、一回り、二回り大きいものもご用意しています。

 

千  人によっては背が高いと扱いにくいでしょうしね。その建水(けんすい)もオーソドックスな利休形(りきゅうがた)に比べて小ぶりですね。

 

利休形の建水(左)と、立礼用に提案したやや小ぶりの建水を比べてみる

 

踊桐絵曲建水

 

橋村 そうですね。利休形の直径が五寸五分(約16・6センチ)のところ、四寸五分(約13・6センチ)にして、そのぶん三分(約1センチ)ほど深くしています。

 

千  コンパクト! 曲の建水は柄杓(ひしゃく)が安定するので安心して使えるのがいいですね。

 

橋村 それと軽さも魅力だと思います。

 

千  今日は茶器もお持ち頂きましたが、この茶器の絵は?

 

橋村 蝙蝠(こうもり)です。五匹の蝙蝠で「福・禄・寿・喜・財」の五つの福を表わしています。あまり写実的になりすぎないようにするため、ハート形に羽が生えているような「すがた」に描いています。

 

千  パッと見じゃわからないけれど、しっかりと見たら確かに蝙蝠ですね。全体の色味がとても好みです。

 

 

橋村 蝙蝠を描いた面取り(めんとり)の部分は溜ですが、全体は瑠璃色になっています。

 

千  深い青が綺麗ですね。茶器は黒や赤、溜塗が多いですから新鮮です。

 

橋村 青漆(せいしつ)という色が「青い漆」と書いてあっても実際には深い緑のように、昔は色の原料の関係で青色を出すのが難しかったんです。現在はもう青色も出せるようになりましたので作品の幅が広がっています。

 

五福絵瑠璃雪吹

 

▼語句の説明

兜門(かぶともん):裏千家の表門のこと。十一代玄々斎によって建てられた。兜門とは門の形式の一つで、屋根の中央部を曲線状に切り取った形が兜を思わせることから、この名が付いたとされる。

結界(けっかい):茶席で、道具畳と客畳との境を示すために置く道具。本来は仏教用語で、修行の場などに境界や制限を設けることを意味する。茶の湯では、木や竹などを用いたさまざまな形の結界がつくられている。

曲(まげ):「曲物(まげもの)」のこと。杉や檜などの薄い板を輪状に曲げ、端を桜の皮などで綴じてつくる。木地のまま仕上げたものを「木地曲」、漆を塗ったものを「塗曲」という。

折撓(おりだめ):檜や杉などの曲げる側板の内側に等間隔に鋸目(のこめ)を入れて曲げる技法。棗や縁高、膳などに用いられ、成形した木地の上から漆を塗って仕上げる。

置上(おきあげ):胡粉などを盛り上げて文様に立体感をもたせる装飾技法。「起揚」とも書く。茶道具では、菊紋などを置上で表した炉縁や薄茶器、曲水指などがある。

家元(いえもと):流儀を継承し、その中心となる存在。ここでは、裏千家十六代・坐忘斎千宗室家元を指す。

好み物(このみもの):茶人や茶家の意匠・考案によってつくられた道具のこと。形や寸法、素材、意匠などにその考えが反映される。「好み」は道具だけでなく、茶銘や菓子などにも及ぶ。

利休形(りきゅうがた):千利休が好んだと伝えられる茶道具の形や寸法。茶器をはじめさまざまな茶道具に「利休形」があり、後世の茶道具の基本となる形の一つとして受け継がれている。

面取り(めんとり):角の部分を斜めに削り、面をつくること。もとは木工の用語で、茶道具にも取り入れられ、「面取釜」「面中次」「面取雪吹」などがある。

青漆(せいしつ):緑色に仕上げた漆塗のこと。「青漆」と書くが、伝統的には深い緑色を呈する。本文では橋村さんが、かつては原料の関係から鮮やかな青色を出すことが難しかったことにも触れている。

 

二章 材を見極める

 

千  ところで、作品に使用している木の種類はどういうものがありますか。

 

橋村 基本的には秋田杉と尾州檜(びしゅうひのき)を使用し、奈良の談山(たんざん)神社から頂戴したご神木を使用する場合もあります……

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