
秋風が吹き始めると、恋しくなるのが秋刀魚(さんま)です。脂ののった秋刀魚を網で焼けば、滴る脂が火に落ちてパチパチと音を立て、もうもうと煙が立ちのぼります。その煙とともに漂う香ばしい匂いも、秋刀魚を焼く楽しみの一つ。そんなどこか懐かしい光景に、秋の訪れを感じる人も多いのではないでしょうか。
秋刀魚は日本の秋を代表する魚ですが、広く食べられるようになった歴史は意外に新しく、江戸時代中頃からとされています。
江戸時代の随筆『梅翁随筆』によると、明和年間(一七六四~七二)までは、江戸で秋刀魚を食べる人は多くなかったといいます。ところが安永改元(一七七二)の頃、ある魚屋が「安くて長きはさんまなり」と大書して売り出したところ、庶民の間で好んで食べられるようになったのだとか。その後、次第に愛好する人が増えていきましたが、武家では秋刀魚を食べない家も多かったと伝えられています。
そんな秋刀魚と庶民の食文化を思わせるのが、古典落語の「目黒のさんま」です。
目黒へ出かけた殿様が、庶民の焼いた秋刀魚を口にして、そのおいしさにすっかり魅了されます。後日、屋敷で秋刀魚を所望しますが、出されたのは脂を抜き、骨を取り除いて丁寧に調理されたもの。目黒で食べた味とは似ても似つきません。どこから取り寄せたものかと尋ね、「日本橋の魚河岸(うおがし)」と聞いた殿様は、「それはいかん。さんまは目黒に限る」と言って、海のない目黒を秋刀魚の名所と思い込んでしまう、というのがこの噺(はなし)の落ちです。
かつては庶民の魚とされた秋刀魚。それを煙を上げながら豪快に焼いて味わうおいしさは、落語の殿様をも虜にしました。
とはいえ、現代の家庭で、もうもうと煙を上げながら焼くのはなかなか難しいもの。魚焼きグリルを使うほか、フライパンにクッキングシートを敷いて焼けば、煙や後片付けの手間を抑えながら楽しむこともできます。
秋刀魚の焼ける音と香りが漂ってきたら、それもまた秋の訪れを知らせるもの。昔ながらの焼き方とは少し変わっても、焼きたての秋刀魚を味わいながら、食卓に訪れた秋を楽しんでみてはいかがでしょうか。
撮影:チリーズ / PIXTA(ピクスタ)
参考文献
『日本を味わう 366日の旬のもの図鑑』淡交社
目黒区「めぐろのさんまのルーツ」
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