
秋の野で、ほかの草木に絡みつきながら勢いよく蔓を伸ばす葛(くず)。萩、尾花、撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴、桔梗とともに「秋の七草」に数えられ、秋になると赤紫色の花を咲かせます。
葛は古くから、人々の暮らしと深く結びついてきた植物です。太い根に含まれるデンプンからは葛粉を採り、蔓は行李(こうり)などを編む材料に。さらに茎から取り出した繊維を織った「葛布(くずふ)」は、木綿(もめん)が広く普及する以前、人々の衣服にも用いられていました。花を眺めるだけでなく、さまざまな用途に利用されてきたのです。
一方、葛は人々の暮らしに役立つだけでなく、その姿は古くから和歌にも詠まれてきました。
葛の葉は、表が緑色なのに対して、裏側は白っぽい色をしています。風が吹いて葉がひるがえると、それまで隠れていた白い裏側がちらりとのぞきます。その姿は「葛の裏葉」と呼ばれ、和歌にも詠まれてきました。
秋風の ふき裏がえす葛の葉の
うらみてもなほ うらめしきかな
(『古今和歌集』平貞文)
「裏を見る」という意味の「裏見」と、人を「恨み」思う心を掛けた歌です。風に翻(ひるがえ)る一枚の葉から、人を思う心にまで想像を広げるところに、古人の感性が感じられます。
秋風が吹くたび、緑の葉の間に白い裏葉が現れては消える――。昔の人々は、そんな一瞬の変化にも秋の訪れを感じ取っていたのでしょう。
葛粉や葛菓子など、今も私たちの暮らしにその名を残す葛。秋の野で葛を見つけたら、花だけでなく葉にも目を向けてみてください。古人が歌に詠んだ秋の景色が、そこに広がっているかもしれません。
撮影:にゃんたっちゃぶる / PIXTA(ピクスタ)
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
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