
八月も終わりに近づく頃。日中にはまだ厳しい暑さが残りますが、夕暮れを過ぎると、草むらから「リーンリーン」「コロコロ」と虫の声が聞こえてくるようになります。鈴虫や松虫、こおろぎなど、秋の虫たちの声です。
日本では古くから、虫の鳴き声を季節の訪れを知らせるものとして楽しんできました。秋の夜に虫の声に耳を澄ませることを「虫聞き」といい、平安時代の文学や和歌にも、虫の音を愛でる人々の姿が描かれています。『源氏物語』にも鈴虫や松虫などが登場し、その声は秋の情趣を深めるものとして描かれました。
平安時代には、公家たちが秋になると嵯峨野へ出かけ、松虫や鈴虫などを捕らえて籠に入れ、宮中へ献上したともいわれています。野に響く虫の音を聞くだけでなく、その声を宮中でも楽しんでいたのです。虫の声がいかに人々の心を惹きつけていたかがうかがえます。
なかでも「鈴虫」は、その名の通り「リーンリーン」と鈴を振るような澄んだ声が特徴です。一方、「松虫」は「チンチロリン」と表されることの多い鳴き声で知られます。こうした虫の音にそれぞれ趣を見いだし、名前をつけて聞き分けてきたことからも、日本人が虫の声に寄せてきた関心の深さが感じられます。
江戸時代になると、虫の声を楽しむ文化はさらに盛んになります。鳴く虫を籠に入れて売り歩く「虫売り」が現れ、身近に置いてその声を楽しむことが流行します。虫の音を愛でる風習は、時代とともに人々の暮らしのなかへと広がっていきました。
夏には蝉の声が響いていた夕暮れも、季節が進むにつれて、草むらから聞こえる小さな虫の音が主役になっていきます。夜風に乗って聞こえてくる虫の声に、近づく秋を感じてみてはいかがでしょうか。
撮影:Blue Liao / PIXTA(ピクスタ)
参考文献
『二十四節気で親しむ 茶の湯の銘』淡交社
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
※参考文献のタイトルをクリックすると、【淡交社 本のオンラインショップ】に移動します。
※最新の価格・在庫状況はオンラインショップにてご確認ください。