若宗匠、作家と語り合う
第2回|千 宗史×宮﨑寒雉

『月刊 淡交』2023年新年号から2024年12月号まで連載された「若宗匠、作家と語り合う」。本シリーズでは、若宗匠が茶道具を手掛ける工芸作家と、「使い手」と「作り手」、それぞれの立場から茶道具やものづくりについて語り合います。

第二回は、金沢の地で代々茶の湯釜を作り続ける宮﨑家十五代・宮﨑寒雉(みやざきかんち)さん。仙叟宗室と初代寒雉の時代から続く裏千家とのつながり、釜肌に「自然な荒れ」を生み出すこと、道具としての使いやすさ、そして歴代の仕事を受け継ぎ「続かせる」こと――。自身も茶の湯を学ぶ寒雉氏と若宗匠が、釜を造ること、使うこと、その先に生まれる景色について語り合います。

本記事は、『淡交』2023年2月号に掲載されたものを再編集しました。掲載当時、誌面では伝えきれなかった新たな写真も交えながら、その対話をあらためてお届けします。[毎月1回、全24回を順次公開予定]

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目次

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一章 釜師の目

 

千宗史若宗匠(以下、千) 本日はようこそお越しくださいました。ありがとうございます。

 

宮﨑寒雉(以下、宮﨑) こちらこそ、本日はどうぞ宜しくお願いいたします。

 

千  まずはお茶を一服……。

 

宮﨑 ありがとうございます。

 

 

千  本日は寒雉さんをお招きするということで、仙叟好の矢筈釜(やはずがま)を使いました。初代か二代の作品と思われるのですが、いかがでしょう。

 

宮﨑 お心入れに感謝いたします。まだ勉強中で、厳密に識別する自信がありません(笑)。肩の部分の荒れ具合は好きですね。作り手によって上手に荒らしてあったり、わざとらしく荒らしてあったりしますが、その様子を見るのが好きなんですよ。この釜の荒れは全体的に見ても優しい印象がありますね。

 

千  肌の色合いも何となく優しさを感じますね。

 

宮﨑 そうですね。作っている時の気分によって、荒れ具合も優しくなったり、強くなったりと様子が変わりますね。

 

千  釜師も人間ですから、その時々の精神の様子が表われるのでしょうね。『淡交』のインタビューなどでも「自然に荒らす」という表現をされていましたが、寒雉さんにとって荒らし具合は重要ですか。

 

宮﨑 「綺麗に荒らす」というと表現として矛盾しますが、「自然に荒らす」という表現を信じて取り組んでいます。

 

 

千  裏千家と宮﨑家は仙叟以来の長いお付き合いですが、僕が寒雉さんと繋がりをもったのは、寒雉さんが青年部活動に取り組んでおられた頃でしたね。最初は釜を作ってられる方というよりは、青年部員としてお茶に親しんでられる方という印象でした。そういえば当時、寒雉さん作の馬形の菓子切をいただいたのですが覚えておられますか。

 

宮﨑 詳しい経緯は覚えていませんが、どなたかに「若宗匠にプレゼントするから作ってくれないか」と頼まれて作ったと記憶しています。

 

千  ということは、僕が午(うま)年ということ、あるいは馬が好きだということをその方が知っておられたんですね。

 

宮﨑 午年のお生まれだということは伺いました。ちょうどその頃、糸鋸(いとのこ)の練習のために真鍮(しんちゅう)板を使って様々な形の菓子切を作っていました。その中に干支シリーズもありまして、その一つとして作らせていただきました。

 

千  干支によっては大変そうですね。

 

宮﨑 菓子切のサイズに収めなければならないので大変ですね。辰は意外と楽でしたが、子(ねずみ)は耳が飛び出ているので難しかったです。そうした問題を解決していくのが楽しくて。

 

 

千  釜以外にもいろいろなものを作っておられるようですが、現代アートにも興味があるということで。

 

宮﨑 興味はありますね。家の仕事ではないので自由に出来て楽しいです。でも、自由に出来るといっても、結局、守ってしまっている自分がいます(笑)。

 

千  無意識に、ですね。

 

宮﨑 ええ。例えばお茶を全く知らない人が作った釜と、茶釜を知っている人がいかにもはずして作りましたという釜は、具合が全然違うというか。

 

千  違うでしょうね。今回、連載を茶道具の使い手と作り手の立場から意見を交わす対談にしようと思った理由のひとつに、茶道具の中にはどうやっても使いづらいものがあると感じていたということがあります。茶碗の場合だと、作者は実際にその茶碗でお茶を点てて飲んだことがあるんだろうかと思う時があり。

 

宮﨑 確かに使いづらい茶道具というのはありますね。でも先ほども申しましたように、私の場合は現代アートやオブジェを作っているといっても結局は釜ですね。

 

千  良いか悪いかは別として茶道具から脱け出せないということですか。

 

宮﨑 そうなんです。だから脱け出せない自分が悔しくて。

 

千  根っからの釜師なんですね。

 

 

▼語句の説明

矢筈釜(やはずがま):茶の湯釜の形の一つ。肩から口辺(くちべり)にかけて斜めに落ち込み、その断面が弓矢の「矢筈」のように窪んでいることからこの名がある。

荒れ(あれ):釜の表面に見られる、肌理(きめ)の粗い肌合いのこと。釜の表面にはさまざまな表情があり、「荒れ」もその一つ。宮﨑寒雉氏は、意図的に荒らしながらも作為を感じさせない「自然な荒れ」を大切にしている。

宮﨑寒雉家(みやざきかんちけ):金沢で代々、茶の湯釜を手掛けてきた釜師の家。初代宮﨑寒雉(一六二八~一七一二)は、京都で茶湯釜の製作技法を学んだのち金沢に戻り、裏千家四代・仙叟宗室に師事。その推挙により加賀藩五代藩主・前田綱紀の御用釜師となった。以来、歴代が寒雉を名乗り、裏千家歴代の好み釜を数多く手掛けている。

仙叟(せんそう):裏千家四代・仙叟宗室(一六二二~九七)。千宗旦の四男で、加賀藩三代藩主・前田利常、五代藩主・前田綱紀に仕えた。金沢では初代宮﨑寒雉に茶の湯釜を作らせ、その推挙によって寒雉は加賀藩の御用釜師となった。以来、宮﨑家は代々、裏千家歴代の好み釜を数多く手掛けている。

青年部:裏千家淡交会青年部。五十歳以下の裏千家茶道愛好者を会員とし、全国各地に展開する青年文化団体。「修練・奉仕・友情」を三つの活動の柱として、茶道と茶道精神を通じたさまざまな活動を行っている。

 

二章 意図と自然

 

千  一度聞いてみたかったのですが、点前をしていると釜の蓋の撮(つま)みがめちゃくちゃ熱くて……という状況があると思います。寒雉さんは実際に点前もされますが、ご自身の経験も踏まえて何か感じるところとかありませんか。

 

宮﨑 お客様には「この前使った釜は撮みが熱くならなかったから、あなたも熱くならない撮みを作ってよ」というご要望を伺うことは確かにあります。でも、作っている側からすると撮みは絶対に熱くなるものだと思っています……

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