
六月になると蒸し暑さを感じる日が少しずつ増えてきます。そんな頃、着物や茶道具には見た目にも涼やかな印象を与える意匠が用いられます。その一つが「遠山文(とおやまもん)」です。
遠山文は、遠く連なる山並みを、なだらかな曲線で表した文様です。霞の向こうに重なる山々を思わせるその姿は、古くから染織や陶磁器、漆芸などさまざまな工芸品に取り入れられてきました。
遠山文は特定の季節だけに用いる文様ではなく、春夏秋冬を通して親しまれています。春には霞たなびく山々を、秋には澄んだ空気の向こうに望む峰々を思わせるなど、組み合わせる文様や取り合わせによってさまざまな景色を表現することができます。
その一方で、暑さを感じる季節には、遠くへ視線を誘う山並みが空間に広がりと奥行きを与え、涼感を演出する意匠としても好まれてきました。流水や雲などの文様と取り合わせることで、より季節感を感じる風景が生まれます。
禅語には「遠山無限碧層層(えんざん むげん へき そうそう)」という句があります。どこまでも青く幾重にも重なる山並みを表した言葉で、その景色の広がりや静けさは、遠山文が表現する世界とも重なります。
山の姿をそのまま描くのではなく、文様として道具や装いに映し、季節ごとに異なる趣を楽しむ。遠山文には豊かな感性が息づいています。
撮影:nosuke/ PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
『茶道具に見る 日本の文様と意匠』淡交社
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