
梅雨の晴れ間や雨上がりの夕暮れ、水辺や野辺に小さな光が舞う季節です。日中は草むらの影で休んでいる蛍も、夕闇が濃くなるにつれ、淡い光を放ちながら飛び交い、初夏ならではの風景をつくり出します。
蛍は古くから人々を魅了し、和歌や物語にもたびたび登場してきました。そのほのかな光は、恋心や儚さに重ねられることもあれば、魂や怨霊を思わせる神秘的な存在として受け止められることもあり、古くから夏を彩る風物詩として親しまれてきました。
茶の湯の世界でも、蛍は涼を感じさせる意匠として用いられます。漆芸では、闇夜を飛び交う蛍を描いた蒔絵が見られ、茶席に静かな趣をあたえます。
裏千家十三代圓能斎好みの「螢籠炭斗(ほたるかごすみとり)」もよく知られています。蛍籠をかたどった炭斗で、低い四方形の姿に細い朱塗りの桟を巡らせ、側面には濃い緑色の紗地に鳳凰と牡丹を織り出した布が張られています。夏の茶席に涼やかな趣を添える道具の一つです。
また陶磁器には「蛍手(ほたるで)」と呼ばれる技法もあります。器面に小さな透かしを施し、その部分に透明な釉薬をかけて焼き上げるもので、光にかざすと透かしの部分がやわらかく明るく見えます。その姿が蛍の光を思わせることから、この名が付けられました。
夜空を舞う蛍の美しさを道具の意匠へと映し込む。季節の情景を茶席に取り入れる工夫には、日本の美意識が息づいています。
撮影:nature/ PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
『裏千家今日庵歴代 第十三巻 圓能斎鉄中』淡交社
『茶趣12ヵ月ハンドブック』淡交社
※参考文献のタイトルをクリックすると、【淡交社 本のオンラインショップ】に移動します。
※最新の価格・在庫状況はオンラインショップにてご確認ください。