
六月十一日ごろから十五日ごろは、七十二候の「腐草為蛍(くされたるくさ ほたるとなる)」にあたります。文字どおりには、「朽ちた草が蛍になるころ」という意味です。
もちろん、実際に草が蛍になるわけではありません。しかし、梅雨時の湿った草むらから、淡い光を放つ蛍がふわりと現れる様子はどこか幻想的です。昔の人々はその不思議な光景を目にして、朽ちた草が姿を変えて蛍になったと考えたのでしょう。そのため、蛍は「朽草(くちくさ)」や「腐草(ふそう)」という別名でも呼ばれてきました。
七十二候には、このように自然を豊かな想像力でとらえた表現が数多く残されています。たとえば春分の頃の「雀始巣(すずめはじめてすくう)」は雀が巣を作り始める頃を、前候の「蟷螂生(かまきりしょうず)」はかまきりが姿を現す頃を表すなど、身近な自然の変化を細やかに言葉にしてきました。「腐草為蛍」もまた、当時の人々の季節に対する感性を、言葉に託した候の一つといえます。
草むらに小さな光がともりはじめる頃。夕暮れ以降、水辺や野辺に目を向けてみるのもよいかもしれません。
撮影:nakaphoto/ PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
『茶趣12ヵ月ハンドブック』淡交社
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