小満(しょうまん)を迎えた五月下旬、山のほうから時鳥(ほととぎす)の声が聞こえはじめます。
初夏に日本へ渡ってくる時鳥は、姿より先に、その鋭く澄んだ声で季節の訪れを知らせます。古くはその年最初の声を「初音(はつね)」、また夜の静けさに忍ぶような声を「忍音(しのびね)」と呼び、人々は耳を澄ませて初夏の訪れを感じ取ってきました。
また、田植えの始まりを知らせる鳥でもあることから、「田長鳥(たおさどり)」や「卯月鳥(うづきどり)」といった別名もあります。「杜鵑」「不如帰」など多彩な漢字が当てられてきたことにも、古くから特別な鳥として親しまれてきたことがうかがえます。
平安末期の歌人・徳大寺実定(とくだいじさねさだ)は、
「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の月ぞ残れる」
と詠みました。声の響きだけを残して過ぎ去る気配が、有明の月とともに鮮やかに写し出されています。
また、時鳥は茶道具の銘にも好んで付けられてきました。「時鳥丸壺(ほととぎすまるつぼ)」という茶入は、後水尾天皇(ごみずのおてんのう)の叡覧(えいらん)に供された際、「惜むらん人におもへば時鳥」の発句の宸筆を賜ったことから、この銘が付いたとされています。
青葉の色が深まるころ、山の向こうから届く声には、初夏の清々しい空気があります。
撮影:ichimonji/ PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
『淡交新書 茶の湯の銘 季節のことば』淡交社
『新版 茶道大辞典』淡交社(絶版)
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