
五月半ばの「糺の森(ただすのもり)」には、新緑のあいだを抜ける風と、少し湿り気を帯びた土の匂いが感じられます。木々に覆われた道を歩いていると、京都市街の中にありながら、はるか昔から続く森に入ったような、ゆるやかな時間の流れと静けさがあります。
糺の森は、下鴨神社(賀茂御祖神社)境内に広がる社叢林(しゃそうりん/鎮守の杜)です。面積はおよそ12万4000平方メートル、東京ドーム2.5個分ほどの広さがあり、古い植生を今に残す森として知られています。ケヤキやムクノキ、エノキなどを中心に約40種ほどの樹木が確認されており、京都盆地の原生的な自然を伝える貴重な場所でもあります。
森の中には、御手洗池(みたらしいけ)を水源とする流れがあり、御手洗川、楢(なら)の小川、瀬見の小川と名を変えながら賀茂川へ注ぎます。木漏れ日の下を流れる細い水の音は、この森の景色の一部として、今も変わらず残っています。
『源氏物語』や『枕草子』、『新古今和歌集』などにもこの地を詠んだ歌や記述が見られ、古くから人々に親しまれてきたことがわかります。
「糺」という字には、「正す」「明らかにする」という意味があり、古くはこの森で、争いごとの真偽を糺したという伝承も残されています。
五月の糺の森では、深まり始めた緑の色と降り注ぐ木漏れ日、そして水の流れが重なり合い、静かな初夏の気配が漂っています。
撮影:でじたるらぶ / PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
「糺の森財団「糺の森について」
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