
夏の夜、山陰の海を眺めると、沖合にいくつもの光が浮かんでいます。「漁火(いさりび)」と呼ばれる、夜の漁に用いられる灯りです。
漁火は、もともと夜に魚を集めるため、漁船で焚かれた松明や篝火などを指す言葉でした。現在では電気を使った集魚灯がその役割を担い、イカ釣り漁などで用いられています。
漁火の歴史は古く、『万葉集』にも能登の海の情景を詠んだ歌が残されています。
能登の海に 釣する海人(あま)の 漁火の 光にいゆけ 月待ちがてり
「能登の海で漁をする漁師の漁火を明かりに、月が出るのを待ちながら旅路を進みなさい」という意味の歌です。
電気のない時代、夜の海に浮かぶ漁火は、今よりもひときわ鮮やかに目に映ったことでしょう。海の暗がりに灯る火と、やがて昇る月。千年以上も前の人々も、そんな夜の海を眺めていました。
松明や篝火から、現代の集魚灯へ。灯りの姿は変わっても、夜の海に浮かぶ漁火は、今も人々の目を引く夏の風景です。
撮影:kumaphoto / PIXTA(ピクスタ)
参考文献
『二十四節気で親しむ 茶の湯の銘』淡交社
奈良県立万葉文化館「万葉百科」
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