
パタパタと扇ぎ、やさしい風を送って涼を呼ぶ道具。それが「団扇(うちわ)」です。
団扇は、風を送るための道具であると同時に、日本人の暮らしに深く根付いた身近な存在でもあります。竹と和紙で作られた伝統的なものはもちろん、現在では柄がプラスチック製のものも広く普及し、駅前や店先では企業やイベントを紹介する広告団扇が配られるなど、私たちの日常のさまざまな場面で目にすることができます。
その一方で、団扇は実用品にとどまりません。古くは宮廷や祭礼で、貴人や女性が顔を隠すための装身具として用いられ、また虫や邪気を払う意味も持つなど、暮らしや信仰とも深く結び付いてきました。
日本へは六〜七世紀頃に伝わったと考えられ、飛鳥時代の高松塚古墳壁画にも団扇を手にした人物が描かれています。室町時代から桃山時代には現在の団扇の原形が生まれ、江戸時代には各地で特色ある団扇が作られるようになりました。
なかでも京都で育まれた「京うちわ」は、別に作った柄に細い竹骨を組み合わせる「差し柄」の構造が特徴です。一本一本の骨を放射状に並べる繊細な技法によって生まれる優雅な姿から「都うちわ」とも呼ばれ、宮廷でも愛用されてきました。その伝統は今も受け継がれ、京うちわは京都を代表する伝統的工芸品として、用と美を兼ね備えた逸品として親しまれています。
茶の湯でも、夏の茶席では待合や寄付に団扇が添えられることがあります。席入りまでのひとときを涼やかに過ごしていただくための心配りであり、季節感をさりげなく演出する道具の一つです。
時代とともに素材や用途は変わっても、団扇が人に涼を届け、相手を思いやる心を運ぶ道具であることは、今も昔も変わりません。
撮影:masa / PIXTA
参考文献
『茶趣をひろげる 歳時記百科』淡交社
京都扇子団扇商工協同組合
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