5月に入ると、釜の位置が「炉(ろ)」から「風炉(ふろ)」へと変わります。寒さが感じられる炉の時期は、大きな口を開けた釜が畳の中に潜り込み、そこから沸き立つ湯煙がお客さまに暖(だん)を与えてくれます。冬が明け、茶室にも春風が吹き始めると、釜はひょっこり姿を現します。お客さまから少し離れた場所で湯を沸かし、軽やかな佇まいで私たちを見守るようになるのです。
先日、風炉の入れ替えと同時に、私が通う茶道会館ではお道具と茶室の大掃除が行われました。私も参加させていただき、半年間、お世話になった季節の器の入れ替えを担当。手を伸ばせば、一番高い棚に手が届くという、長身である私が重宝される場面でのお仕事です。社中の先輩にいただいたアドバイスは「片付けた感を出すこと」。炉の時期に使われていた器を取り出し、仕舞われていた春の器と入れ替えます。家でも洗った器を適当な位置に戻している私ですが、今回の道具の入れ替えでは、いつも以上に丁寧に正しい場所に配置していきました。不思議なことに、器を入れ替えただけなのに「片付けた感」が出る、出る!急いでいる時はどうしても雑に戻してしまう器も、こうやって半年に一度、衣替えのように入れ替えるだけで、輝きが増すのですね。
さて、風炉の時期を迎えた週末。まさに、お茶漬けな土日を過ごしました。土曜日は、半年ぶりに登場した風炉釜へのご挨拶も込めて、薄茶点前のお稽古が行われました。釜の位置が変わるだけで、お点前もリセットされます。この日は藤棚(ふじだな)をイメージした「藤波」という主菓子が登場。お稽古場の庭に咲く花が、茶室にもヒラヒラと舞い降りてきたような姿をしていました。
翌日、日本パンダ保護協会会長の土居利光さんにお招きいただき、石州連合会茶会に参加させていただきました。気温が25度を超えていたので、薄緑の単衣(ひとえ)に、祖母から受け継いだ、白黒模様に金色の刺繍が施された帯を締め、帯締めは白。土居さんのお茶会なので、パンダコーデを意識した着こなしで会場に向かいました。
違う流派のお茶会に参加するのは初めてのことでしたが、前日、先生には「客は主役ではない。亭主の気持ちを考えて、茶会を楽しむことが大事」とおっしゃっていただきました。自分の所作に気をとらわれず、亭主のみなさんが用意してくださったおもてなしの気持ちをしっかり味わうことを忘れないようにしたい、と改めて感じました。
土居さんは立礼席で私たちを迎えてくださいました。ご自宅から持って来られた木製の立礼棚で盆略点前を変形させた独自のお点前を披露。お道具もウッディーでモダンな印象のものが多く登場し、お茶も無農薬。環境問題にも取り組まれていらっしゃる、土居さんらしい設えに心躍りました。さらに、土居さんの奥にある床の間に目を向けると、私が以前、プレゼントさせていただいたシャンシャン茶碗が!ご自身で書かれた掛け軸やおめでたいお道具に囲まれて、シャン子茶碗もご満悦でした。
流派は違うけれども、お客さまに最高のおもてなしを。その心が茶室の隅々まで広がる、温かい茶会でした。
撮影:はな


