
秋という季節の訪れを、象徴する存在である鹿。
古来より、秋深まるころに雄鹿が雌鹿を求めて発する切ない鳴き声は、秋ならではの寂寥感や哀愁を映し出すものとして愛されてきました。
古くは万葉集にも詠まれていました。
人里と自然との境界は今よりもずっと曖昧で、人々は自然が奏でる微かな息づかいを鮮明に感じ取っていたのでしょう。
寂しげに響く鹿の声に、巡り来る秋の深まりと、胸に秘めた恋心を重ね合わせていたのかもしれません。
また、「楓(もみじ)」と「鹿」を取り合わせた文様は「楓鹿文(ふうろくもん)」と呼ばれます。
秋の美しさを一図に凝縮した意匠として鎌倉時代に定着し、今なお数々の美術工芸品を彩り続けています。
「奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき」

本日の和菓子は、菓子屋のなさんの「鹿おどり」です。
菊の花弁を練り込んだしっとりとしたういろう生地の中に包まれているのは、まろやかな梨あんと、香ばしく煎り上げた松の実。
懐かしいような新しいような、ちょっと不思議で独創的な味わい深い一品です。
モチーフとなったのは、宮沢賢治の物語『鹿踊りのはじまり』。
岩手県に伝わる伝統芸能「鹿踊り」を題材に、鹿の言葉が解かるようになった主人公の、不思議でどこか温かな交流が描かれています。
それはまるで、のなさんが紡ぐお菓子の世界観そのもののような物語です。
**************
菓銘:鹿おどり
ご製:菓子屋のな
住所:京都市下京区篠屋町75
器:角皿
作:中里花子さん
撮影・文:日々に和菓子
**************
※掲載した和菓子が販売されているとは限りません。
※販売状況は店舗にお尋ねください。
