抹茶と「MATCHA」、何が違うの?― いつもの抹茶を、いろんな立場から ―第1回|「抹茶」を知る 一服を茶畑まで遡ってみると

茶の湯でいつも口にしている抹茶。その一碗も、見方を変えれば、さまざまな姿が見えてきます。

茶農家にとっては育てる「農産物」、茶業に携わる人にとっては加工し、流通させる「商品」。そして今や、海を越えて「MATCHA」として世界中で親しまれる存在でもあります。

農林水産省職員として茶業に携わり、自らも茶の湯に親しむ梅村崇さんとともに、茶の湯、生産、産業、世界……いろんな立場から、私たちの身近にある「抹茶」を見つめていきます。

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皆さん、「抹茶ブーム」という言葉にも聞き飽きた頃かと思います。

10年前、私が農林水産省に就職したころ、茶の輸出目標を見て「そんなに増やすのは難しいだろう」と正直思っていました。お菓子の抹茶味の人気はあれど、茶道人口が増えなければ、抹茶そのものの需要は伸びないと考えていたのです。ところが実際には、輸出は大きく増え、世界的な需要が急増し、2025年には、これまで主に茶道用として扱われてきた抹茶まで品薄になりました。お抹茶が手に入らず困った方もいらっしゃったのではないでしょうか。

 

茶室でごく当たり前に点ててきた抹茶が、海の向こうでも大いに楽しまれている。それは茶の湯に親しんできた私たちからすると何だか不思議な光景ですよね。

海外の私の友人の中には、日本の茶人以上に日常的に抹茶を飲み、抹茶に詳しい人がいるくらいです。もはや抹茶は日本の伝統から飛び出した「世界のMATCHA」となりつつあるようです。

しかし茶室で飲まれてきた抹茶と世界のMATCHAは果たして同じものなのでしょうか。

 

そもそも抹茶とはどのように作られているのでしょう。まずは茶畑まで遡ってみたいと思います。

抹茶の大きな特徴の一つは、葉を摘み取る前の樹(き)に覆いをして、日光を遮ることです。植物にとって日光はご飯のようなものなのに、どうしてわざわざ暗くしてしまうのだと思いますか? 実は、人間にとっておいしい抹茶を作るために、チャの樹に少し無理をしてもらっているのです。

チャの新芽には、うま味に関わるアミノ酸「テアニン」が多く含まれていますが、日光を浴びるにつれて代謝され、少なくなっていきます。一方、日光を浴びた葉は、強い光などから身を守る働きがある、渋味に関わる「カテキン」などの物質を増やします。

チャの性質をうまく利用して、人間にとっておいしい葉を作る。それが抹茶づくりの「覆い」なのです。

 

 

覆いをしてから2~3週間程度で茶摘みを迎えます。現在、茶摘みでは、多くの茶畑で機械化がされています。

ところが、技術が発達した現代でも、一部の畑では、新芽を手で摘むという方法が当たり前のように行われています。とても手間がかかる方法ですから、産業として見れば、人手やコストなどの問題があって、なかなか続けられるものではありません。茶の湯側の、特に濃茶に使われるような高品質な茶のニーズが、一つの背景となって、商業ベースでも続けられているのだと思います。

 

 

この後、摘み取った葉は茶工場へ運ばれ、蒸したあと乾燥させて、抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」の「荒茶(あらちゃ)」になります。「荒茶」とは、生産者が加工した段階の茶のことで、まだこれで完成ではありません。

その後、取引された荒茶は、さらに乾燥させたり、茎や葉脈を取り除いたり、合組(ブレンド)したりして、碾茶が完成します。これを碾茶の仕上げ茶といいます。

 

 

最後に石臼で挽けば、抹茶の出来上がりです。石臼を使って、1時間に40g程度しか加工できません。濃茶なら10人分程度で終わってしまう量です。現在ではさまざまな粉砕技術がありますが、それでも多くのお茶屋さんが石臼を使い続けています。たとえ時間はかかっても、抹茶の絶妙な舌触りや繊細な香りを引き出せることが、今も石臼が使われる大きな理由です。

 

 

茶の湯では当たり前のように使ってきた抹茶も、一服から茶畑まで遡ってみると、その「当たり前」の一つ一つに理由があり、また新たな疑問も出てきます。

そして今、10年前の私には想像できなかったほど、抹茶を取り巻く世界は大きく広がっています。

見る場所や立場を少し変えれば、いつもの抹茶も違って見えてくるかもしれません。私たちの知る抹茶と世界の「MATCHA」は何が違って、何が同じなのか。産業から見ると、どんな姿が見えてくるのか。そして、手摘みや石臼はなぜ今も続いているのか……。今回、駆け足でたどった「抹茶」の背景を、これから一つずつ皆さんと見ていきたいと思います。

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執筆者

梅村 崇

うめむら たかし|一般社団法人茶の場代表理事。裏千家学園で日本茶概論の講師を務めるほか、表千家茶道准教授、日本茶インストラクターとして活動。農林水産省在職中には、公式YouTube「BUZZ MAFF」で日本茶の魅力を発信するチャンネルを企画。現在は京都を拠点に、茶会やセミナーなどを通じて、日本茶と茶の湯の魅力を伝えている。Instagram(@ochamura88)

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