懐石料理の基本は「一汁三菜」とよく言われます。茶道書だけでなく、料理の本などでも目にする言葉です。ただし、実際の茶事で供される懐石は、これだけで完結するものではありません。預鉢(あずけばち)や八寸(はっすん)、湯桶(ゆとう)などが続き、料理の数はさらに増えていきます。では一体「一汁三菜」とは懐石のどの部分を指すのでしょうか。
『新版 茶道大辞典』では、「一汁三菜」は「草庵式茶事における懐石の献立の基準となるもので、汁と向付・煮物椀・焼物を指し、これに八寸・箸洗が添えられる」と説明されています。
一般的な懐石の流れは、
飯/汁/向付/煮物椀/焼物と進み、その後に預鉢や吸物、八寸、湯桶などが続きます。このうち「一汁三菜」は、懐石の前半部分にあたります。「一汁」は汁の一椀、「三菜」は向付・煮物椀・焼物の三種を指します。飯は常に添えられますが、「菜」の数には含めません。
向付は、膾(なます)や刺身などを盛る一品で、最初に供される菜です。酢のものや生の素材を用います。煮物椀は、出汁を主体とした主椀で、真薯や季節の具を用いた吸物仕立ての一椀です。懐石の中でも中心となる位置を占めます。焼物は、鯛や鰆などの魚や鳥肉、豆腐などを焼いた料理で、取り肴として供される一品です。三菜の中で量の中心となる役割を担います。この構成は、本膳料理の流れの中で整えられた献立の型に由来します。本膳料理は室町期以降、武家社会で発展した正式な膳立ての料理で、汁と菜の組み合わせに一定の形式がありました。懐石はこれを簡素化し、茶を中心とするための食事として再構成したものとされています。
茶事では、この三菜のあとに預鉢が加わることがあります。預鉢は追加の料理であり、客数や趣向に応じて設けられますが、一汁三菜の構成そのものが変わるわけではありません。
一汁三菜とは、懐石のすべてを指す言葉ではなく、草庵の茶事において最初に整えられる献立の基準を示す語です。懐石全体の流れの中で見ることで、その位置づけがより明確になります。