特集「MOSS KOGEI Kyoto 2026」

江戸時代初期、本阿弥光悦が「光悦村」を開いた琳派発祥の地・京都鷹峯。この歴史ある地を舞台に、2026年10月17日(土)・18日(日)、伝統の系譜と現代の創造性を融合させる文化イベント「MOSS KOGEI Kyoto 2026」が初開催される。工芸作品と工芸にまつわるモノやコトとの出会いの場を創出。参加者が五感を研ぎ澄ませ、心豊かな時間や新たな気づきへと繋がる特別な体験を提供する。

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1|ものづくりの歴史が息づく地・鷹峯

 

京都市北西部に位置する鷹峯(たかがみね)は、豊かな自然と歴史が息づく静謐(せいひつ)な地。市街地の喧騒から離れ、ゆったりとした時間が流れている。

元和元(1615)年、徳川家康よりこの地を拝領した本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)は、一族や工匠たちと共に移り住み「光悦村」を築いた。書・陶芸・漆芸(しつげい)などの分野で活躍した総合芸術家の光悦は、この地で俗世や権力から離れ、創作三昧の日々を過ごす。紙屋、筆屋、蒔絵師、陶工など、職能の異なる工匠が一つの場所で交わり、琳派の源流となる共同体が生まれた。

昭和26(1951)年、染織業「しょうざん」の初代・松山政雄は、「光悦村の再建」を目指してこの地を求めた。戦後、消失の運命にあった日本の古建築を移築し、三万五千坪の広大な地に北山杉を植え、苔を育てた。「美しい環境が芸術を愛する心を育む」という理念のもと、従業員の心を養い、よきものを生み出すための美しい環境を整え、山紫水明の庭園を誕生させた。さらには、戦後の混乱期に生活に困窮した子どもたちを支援して、手に職をつけさせる場づくりを志していた。

「作り手が集い、ものをつくる」という歴史を紡いできた鷹峯。光悦ゆかりの地に広がる「しょうざんリゾート京都」の美しい苔庭は、伝統と現代の文化を未来へと繋ぐ「MOSS KOGEI Kyoto」の新たな舞台となる。

 

 

 

2|日本の美意識を次の世代へ繋いでいくために

 

「二度の戦争を体験した祖父は、戦地の暗闇の中で、美しい日本の景色をもう一度見たいと願っていたそうです」

しょうざんの創設者・松山政雄の孫であり、「MOSS KOGEI Kyoto」実行委員の松山佳世さんは、生前に会うことの叶わなかった祖父の想いが、自身の内に受け継がれていることを感じている。

「自然美溢れる庭園、日本の粋を集めた茶室や屋敷など、かつて心に描いた和の情景を形にしたこの場所をたくさんの人にご覧いただき、その魅力を体感いただくことを祖父も望んでいたと聞いています。70年の時を経て、今の姿となっておりますが、持続可能な文化資源として、次の世代へとバトンを繋いでいくことが私たちの使命だと思っています」と佳世さんは語る。

 

 

また、自身の世代において、日本のものづくりと工芸を見つめ直す機会をつくりたいという思いもあった。都市化や利便性の追求、AIの普及が進む現代、手仕事は暮らしから切り離され、技術の系譜が途切れようとしている。過去をそのまま保存するのではなく、工芸の背後にある思想や美意識を手に取り、感じられる場を設けたかったのだという。

現在の工芸は産地やジャンルで分かれている側面がある。約400年前、この地に生まれた光悦村では異なる分野の工匠が集まり、隣り合って働くコミュニティの中で、ものづくりが行なわれていた。

「これこそが今、必要な形ではないでしょうか」

「MOSS KOGEI Kyoto」のコンセプトの起点である。

 


峰玉亭内装

 

会場では、約30名の現代作家や鷹峯ゆかりの作家による作品展示・販売が行われ、陶芸、金工(きんこう)、木工(もっこう)、漆芸、和紙、ガラス、染織(せんしょく)、唐紙(からかみ)、織物など多彩なジャンルが横断的に展開される。

「今から100年前の日本では、暮らしの中で使い、飾り、生活に寄り添う工芸、『用の美』が大切にされていました。自分が好きなものを知り、見つけて、それと一緒に生きていくというのは、心豊かで幸せなこと。たったひとつのお箸置きでもいい。『これ素敵だな』と感じるものを手に入れ、暮らしの中で使ううちに『こんなお箸を置きたいな』『これに合うお茶碗が欲しいな』と好きな世界が広がっていく。花瓶を買うことで、季節の花を意識するようになったり、お花屋さんに立ち寄ったり。そんなふうに日々の暮らしの中に新たな視点が加わり、豊かな時間を増やすきっかけになればと願っています」

工芸や伝統というと難しく捉えられがちだが、「MOSS KOGEI Kyoto」は子どもたちでも「面白いな」と感じられるものを目指している。自分の生まれた日本にはこんなにも素敵なもの、美しいものがあるのだと気づいてくれるだけでも嬉しいと佳世さんは微笑む。工芸に触れ、自分の好きなものを見つける。そんな新たな出会いのきっかけとなる扉を開くような気持ちで訪れてほしい、それこそが「MOSS KOGEI Kyoto」に込められた佳世さんの思いである。

 


中根 楽

 


富井 貴志

 

3|伝統と現代の工芸に出会う「MOSS KOGEI Kyoto 2026」

 

「MOSS KOGEI Kyoto」はしょうざんリゾート京都の敷地内を会場とし、伝統や現代の工芸作家による展示をはじめ、体験型ワークショップ、トークイベント、実演、食体験、茶会などが開催される。

迎賓館として建てられた「峰玉亭」では、御所人形や漆作品、着物、茶道具の展示・販売に加え、「用の美」の精神を伝える黒田辰秋、河井寛次郎の名品を間近で鑑賞できる空間も設けられる。松山政雄夫妻の旧宅「紫峰邸」では、前述の現代作家30名余りの世界観を紹介する展示・販売、古道具の展示が行われる。庭園内2箇所、実際の酒樽を用いた遊び心溢れる「酒樽茶室」では、酒器の展示とサウンドインスタレーションを展開。

 


黒田辰秋 拭漆飾棚

 


「酒樽茶室」を説明する「MOSS KOGEI Kyoto」実行委員の松山佳世さん

 

他に伝統に新しいエッセンスを融合させる企画として、唐津の名匠・中里隆氏の監修のもと、信楽の古谷宣幸・朱里夫妻の作品で楽しむ8名だけの特別ディナー「陶芸家の晩餐」も実施。料理は京都の「ごだん宮ざわ」によるもので、しょうざんで採取した土を使ってこの催しの為に誂えた器で供される、当地ならではの特別なおもてなしとなる。

また、テクノロジーやジェンダー、デザイン、環境など幅広い分野の専門家を招いたトークイベントも実施。技術の継承や素材の枯渇(こかつ)など、工芸の枠を超えた現代の課題に向き合う機会を創出する。

このほかにも、工芸への理解を深め、その魅力を五感で余すところなく体感できる充実のプログラムが用意されている。

 


練香作り体験

 

 

4|「茶の湯」を通して工芸を体感する特別茶会『光悦憧憬』

 

現代の工芸を「茶の湯」を通じて体感できる特別茶会『光悦憧憬―工芸を愛でる茶会』が開催される。選び抜かれた現代工芸作家たちによる茶道具の数々が、茶席や展観席で贅沢な共演を果たす。心惹かれる茶道具との出会いがあれば、そのまま手に入れていただくことも可能。

庭園内にある「聴松庵(ちょうしょうあん)」は、本年百五十年忌を迎えた茶道裏千家十一代家元・玄々斎の設計と伝わる由緒ある茶室である。ここでは茶室建築家・飯島宗照氏の解説とともに濃茶が振る舞われ、同じく園内の「玉庵」では薄茶が楽しめる。さらに、玄々斎による茶事記録に基づき、たん熊北店が手がける、趣向を凝らした点心席も「峰玉亭」にて味わうことができる。

 

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関連情報のご案内

京都・鷹峯【聴松庵茶会】―近代化に伴う十一代玄々斎と聴松庵主の交流で生まれた茶の湯空間―

玄々斎設計と伝わる聴松庵での特別茶会

2026年10月17日(土)・18日(日)

洛北

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