茶道を楽しんでるって、スタイルとしてカッコいい
――茶道との出合いについて教えてください。
10年ほど前に、妻から「お茶事用のお茶碗をつくってください」と言われたのが、すべての始まりでした。軽い気持ちで100碗くらいつくったのですが、その中から妻が選んだのはたった2碗。……愕然としまして(笑)。
それから、「いったい何がダメだったんだろう?」ということが気になって、茶道を学び始めたんです。
――茶道はご自身のライススタイルにどのような影響を与えていますか?
良い意味で“足を休められるポイント”になっている、というか。お稽古でお茶を点てているときも、陶芸をやっているときもそうなんですが、とにかく集中しているから、無心に近い状態になれる。そういう時間って、ふだんあんまりないじゃないですか。生活にメリハリがつく、というか。また、そういうときに仕事のアイディアがふと思い浮かんだりもする。
山口県長門市の田原陶兵衛工房にて。一碗、一碗、丁寧に釉薬を掛けていく。
――NIKEの「AIR FORCE 3 LOW SP TOGEI」シリーズもその一例ですか?
そうですね。“日本”っぽいものをつくりたかったんです。それで、家にあった陶片をアメリカのチームに見せてマテリアル(素材)を開発してもらって。もちろん彼らは「金継ぎ」や「呼び継ぎ」[※1]のことは知らないのですが、説明してあげると、「うわ! すごい」となる。
でも、最初は正直、「どうかな?」って若干不安に思っていたんですよ。特に前回はLEVI’Sとのコラボだったので、それに比べるとちょっとフック(惹き)がないというか、地味なのかな、と。でも結果は“即完(売)”。周りのクリエイターたちにも、すごく評判が良かったですね。
※1 割れたり、欠けたりした陶磁器を接着し、継ぎ目を金などで装飾する技法が「金継ぎ」。また、欠損した部分に異なるマテリアルの破片を継ぎ合わせることを「呼び継ぎ」という。いずれも、修復と同時に、新たな美を生み、器を再生させる日本ならではの伝統技法。
―― HUMAN MADEのコンセプトは“The Future Is In The Past(未来は過去にある)”ですが、伝統文化にはまだまだ未来を拓く可能性がある、と。
はい。でも結局、学びきれずに最期を迎えると思う(笑)。そぎ落とされて、そぎ落とされて現代まで残っている伝統文化って、やっぱり深いし、おもしろい。でも、それがわかるには、若いうちは難しいのかなあ。
自分もまだ全然わかっていないんですけど、たとえばお茶を飲むときに時計や指輪をすっと外すとか、日本人としてスマートじゃないですか。まずはそういうところから興味をもってくれればいいんじゃないかな、と思います。今回の展覧会が、そのきっかけの一つになってくれればうれしいです。
――最初はすべてが理解できなくても、お稽古を続けていくうちに、点が線になってつながっていきますよね。
そうですね。どんどん広がっていく、というか。お稽古を始めて感じたのは、「茶道具の取り合わせってファッションに近いな」ということ。全体がまとまっているなかにあえて異質なものを入れて、ハズしたりする。これって、「スーツに足元はスニーカー」っていうニュアンスに近いんですよね。そういうところから興味が深まって、今は飛行機のなかで禅語大辞典なんかを読んで感心したりしています(笑)。そういう広がりが楽しいですね。
――趣味としての茶道は、ややハードルが高いというイメージもあるようです。
今はいろんな娯楽がありますけど、趣味で茶道を楽しんでる、ってスタイルとしてカッコいい。半泥子[※2]もそうですけど、昔は経営者の人たちがこぞってお茶会を開いていましたよね。ぼくはそれがすごくカッコいいと思っているんです。
今はとにかく情報量が多い時代。それこそ、スマホのなかにはバーチャルなもの(仮想的、疑似的な世界)があふれています。でも、もう少し経ったら、(AIが生成したものではない)リアルなものほうに、みんな戻ってくるんじゃないかな。茶道や陶芸とか、よりダイレクトに伝わるもののほうに。
※2 現在では陶芸家として広く知られている川喜多半泥子(本名・久太夫政令)は、三重県津市の豪商の家に生まれた実業家。百五銀行頭取などを務め、地域の文化・経済の発展に尽くした。奥義まで到達した茶道はもちろん、書画、写真、俳句、美食などにも通じた粋人で、そのマルチな才能から「東の魯山人、西の半泥子」とも称される。ちなみに人間形成に大きな影響を与えた祖母・政は、裏千家十一代家元・玄々斎の高弟であり、後援者でもあった竹川竹斎の妹。NIGO®と半泥子の茶碗づくりの共通点について、石水博物館の龍泉寺由佳氏は「親しみやすいイノセンス(無邪気、純真、天真爛漫など)と、近寄りがたいストイックさが同居しているところではないかと思う。時代は違えども世界に出て多様な文化に触れ、グローバルな視点から日本文化を俯瞰してその素晴らしさを改めて知り、特に茶の湯という文化に魅了された。茶道に精通し、茶碗とは何たるかを知った。本業が多忙を極めた壮年期から作陶にのめり込んだ」と述べている(『NIGO®のちゃわん ぼくもろくろのまわるまま』淡交社刊)。
もう10年早く始めていたら……
――世界を舞台に活躍されていますが、海外で仕事をするうえで、茶道はどのように役立つと思われますか?
ぼくもまだまだ勉強中ですが、今は日本人でも、日本のことを全然知らない人が多いと思います。一方で、それを知りたいっていう人も本当にたくさんいる。お茶って日本人の基本が学べる、と思うんです。ぼくは学校でも教えたらいいのに、と思っているくらい。この展覧会をみてくれた人からもよく、「お茶ってどうですか?」って訊かれるんですが、「絶対やったほうがいいよ」って(笑)。お茶も陶芸も、もう十年早く始めていたら……と、ぼくはいつも後悔しているので。
何が身につくかって、やはり「心」なんじゃないかな。気遣い、おもてなし……、つまり日本人としての心。
ぼくは大切なお客さんが家に来るときにお茶を点てて差し上げることがあるのですが、たとえば夕方にその方がお見えになるとしたら、朝から準備をします。お菓子を買いに行って、お茶碗を選ぶ。「どういう茶碗が好きかな」とか「この茶碗をきっかけにどういう話ができるかな」とか、いろいろ考えながら。お茶を知らない人からすると、ただでさえ時間がないなかで何をムダなことをしているんだって思われるかもしれないけれど、ぼくにとっては、とても重要な時間です。先日もある方を訪ねたときに茶箱で一服いただいたのですが、その時間って、やはりなんとも言えない特別なひとときなんですよね。心がほどける、というか。話も広がりますし、コミュニケーションがより円滑になる。
――3月3日、7月7日など節目節目には奥様にお茶を差し上げているとお聞きしました。
そうですね。その時期の茶道具やお茶碗を選んで。そういう、ちょっと改まったとき以外にも、焼きあがったばかりの茶碗を試したりしてもらっています。“お茶”っていう共通のキーワードで家庭でも話ができるのは、やっぱり楽しいですね。
陶芸? これからも続けていくために、ちょっと手を休めています。今は良いものをみて学ぶ、インプットの期間かな、と思っています。
NIGO®
にごー|ファッションデザイナー。1990年代に自身が立ち上げたファッションブランドが裏原宿から世界を席巻、現在のストリートカルチャーの礎を築く。2010年にブランドHUMAN MADEをスタート。20~21年にはLOUIS VUITTONにてコレクションを発表。現在はKENZOのアーティスティックディレクターを務め、またファミリーマートのクリエイティブディレクターにも就任するなど、ファッション以外にもますます活躍の場を広げている。茶名は宗号。
撮影:川本聖哉
取材・構成:宮﨑博之
撮影:大道雪代
ZENBIインフォ/
ZENBI―鍵善良房―KAGIZEN ART MUSEUM
特別展「NIGO®と半泥子」
開催中~4月12日(日)
茶の湯を通じて、“クリエイター”川喜多半泥子(1878~1963)を知り、私淑するようになったNIGO®。本展では彼の半泥子コレクションから55点と、自身の作品25碗を厳選して展覧します。鍵善良房特製の菓子など、さまざまなミュージアムグッズも充実。
〒605-0074 京都市東山区祇園町南側570-107
京阪本線「祇園四条」駅6番出口より徒歩3分。阪急線「京都河原町」から徒歩10分。
四条縄手の交差点を南へ、1筋目を東へ約50m。左折すぐ。
TEL:075-561-2875
URL:https://zenbi.kagizen.com


