茶碗のミカタ第1回・井戸茶碗

  • 監修:谷村庄治(茶道古美術商「谷庄」専務)

茶碗の“見方”のコツを、茶道具の目利きである先生に茶道初心者Mが生徒となり一から学ぶシリーズ。 

今回の拝見で あなたの“味方”になる 知識が身につくかも。

第1回は「井戸茶碗」を拝見します。

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記事内容

“ 高麗茶碗の王様 ”

井戸茶碗

モデル:小井戸茶碗 銘「小鳴戸(こなると)」

 

先生  今回は井戸茶碗です。まあ、あれこれ説明する前に手に取ってみましょう。井戸のなかでも小ぶりな小井戸茶碗を用意しました。 

生徒M おお……見た目からざらっとした粗い土の感じを想像していたのですが、やわらかな触り心地で想像よりも軽いです。 

先生  うんうん。茶碗についての知識がなくても素直な感想でいいんです。良い茶碗は見た目より軽いことが多いかもしれません。この茶碗は見込みの底がずいぶん深いでしょう? 

生徒M 見込みを深く削っている分、軽いんですね。 

先生  見込みの深さのほかに、井戸茶碗には枇杷(びわ)色であるろくろ目がある、竹節高台(たけのふしこうだい)、兜巾(ときん)がある、梅花皮(かいらぎ)が出ているという特徴があります。 

 

 

生徒M そんなに約束事があるんですか!? 

先生  約束事というより、あくまでも見どころですね。この小井戸は、梅花皮はおとなしいけど、竹節高台や渦状のヘラ目が特徴的。井戸はその大きさから大井戸や小井戸、色味から青井戸という分類はあるものの、一つとして同じ作行(さくゆ)き(出来栄え)のものはないんです。 

生徒M その茶碗の見どころとなる個性を見つけて、拝見することが大切、ということですね。 

 


 

先生  それでは井戸の歴史を簡単に見ていきましょうか。井戸は高麗茶碗の一種、十六世紀頃に朝鮮半島で焼かれたものですが、もとは日用雑器や祭器としてつくられたといわれています。だから抹茶を飲むための茶碗じゃなかった。いわゆる「見立て」ですね。 

生徒M えっ! じゃあこれにご飯をよそっていたかもしれないんですね……。 

先生  そうかもしれない。お茶の世界で今こんなにも重宝されているなんて、井戸茶碗自身もこそばゆいと思ってるんじゃないかな?(笑) でも井戸は周りの期待に応えるだけの懐の深さがあったんです。 

生徒M 例えばどんなところでしょうか? 

先生:この茶碗の口にはニュウ(ひび)がいくつも入っています。でも全然気にならないでしょう? むしろ風格が増して見える。 

生徒M たしかに、かっこいいとさえ思えてきた。 

 


 

先生 井戸は無作為なのが最大の魅力だと思います。狙いがないからこそ、わびの精神や美意識にかなう。我々の感性を試されているようにも感じてしまいますね。 

生徒M 人によって感じ方が違う茶碗なんですね。 

先生:本当の井戸のような見込みの深さと、無作為であるが故の懐の深さ。井戸茶碗が高麗茶碗の王様といわれる所以です。 

 

イラスト:田渕正敏

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記事詳細情報

執筆者

谷村庄治

たにむら しょうじ|1975年、石川県生まれ。金沢で明治元年に創業した茶道古美術商「谷庄」専務。

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