茶道のお茶会でお茶をいただくとき、茶碗を少しまわしてから口をつけます。
これは、茶碗の正面を避けるための所作です。
茶会で用いられる茶碗には、絵付けや景色がもっともよく見える「正面」があり、亭主はその正面を客のほうへ向けて差し出します。そこには「どうぞご覧ください」という意図が含まれています。
客はその正面をそのまま口に当てるのではなく、少しだけまわしてからいただきます。これは、見どころである正面に口をつけることを避けるための所作です。茶碗の景色を尊重し、正面を汚さないようにするという考え方に基づいています。では、実際どのくらいまわすのでしょうか。
「二回まわす」と教わることもありますし、「90度ほど」「180度ほど」と説明されることもあります。ただし、本質は回数や角度にはありません。大切なのは、正面を避けるという姿勢です。数字を守ること自体が目的ではありません。
もう一点、実際の扱いとして意識しておきたいのが、正面を外したあとの位置です。どこに口をつけるかという問題です。
茶碗の口縁は、必ずしも均整に作られているとは限りません。楽茶碗などには、口縁に凹凸をもつ「五峰(ごほう)」と呼ばれる造りもあります。このような場合、形式に合わせて位置を決めるよりも、飲みやすいところからいただくほうが自然です。茶碗は鑑賞の対象であると同時に、実際に用いる器でもあるためです。
正面を外すのは、亭主を敬い、もてなしに感謝する気持ちを形にするためのものです。そのうえで、茶碗の造形を感じ取り、無理のない位置からいただく。この二つが同時に成り立つところに、所作の意味があります。
初めての場では、回数を間違えないかが気になるかもしれません。しかし本来重視されるのは、相手を敬い、感謝していただく姿勢です。まわすという小さな動きは、その気持ちを目に見える形にしたものといえます。
まずは、正面を避けるために少しだけまわす。それを理解していれば十分です。回数よりも意味を理解していることのほうが、実際の場では自然な振る舞いにつながります。
参考文献
『茶の湯がわかる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 3級』淡交社
『茶の湯をはじめる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 4級』淡交社
『茶の湯Q&A』淡交社(絶版)
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