茶会や稽古場で茶碗を拝見するとき、つい目がいくのは釉薬の表情や華やかな景色かもしれません。けれど、見る順番や視点を少し変えるだけで、これまでとは違った印象が見えてきます。
その順番は「全体」「景色」「高台」です。
まず見るのは、茶碗の「全体」です。
少し距離をとり、置かれた姿を眺めます。口縁(くちべり)の開き具合、胴の張り、高さとのバランス。「派手さがなくてもどこか心地よい」「きりっとした造形だ」など、第一印象は、あとから細部を見ても大きくは変わりません。なぜなら全体の姿は、その茶碗の「佇まい」そのものだからです。
次に目を向けるのが「景色」です。
茶碗の景色は、ひとつの要素だけで成り立つものではありません。
釉薬の色や流れだけでなく、それが陶器なのか磁器なのか、土が締まっているのか、粗いのか、絵があるのか、無地なのか。全体として派手なのか、落ち着いているのかなど、こうした複数の要素が重なり合って茶碗の景色は形づくられています。
たとえば同じ白釉でも、柔らかな土に厚く掛かったものと、磁器肌にすっと掛かったものとでは、受ける印象は大きく異なります。絵付のある茶碗も同様で、絵が主役になるものもあれば、形や土味を引き立てるものもあります。
ここで大切なのは、全体の形と、これらの要素がどのように重なり合っているかを見ることです。
最後に見るのが、「高台」です。
高台は茶碗の底部でありながら、その茶碗の性格や作り手の判断が端的に表れる部分でもあります。
高台を見るとき、まず注目したいのが、兜巾(ときん)です。
兜巾とは、高台の内側に立ち上がる部分を指します。
兜巾がきりっと立っているのか、やや丸みを帯びているのか、あるいは削りを抑え、土の気配を強く残しているのか。
それらの違いが、削りの調子として明確に表れます。
高台全体を見るときも、畳付の安定感だけでなく、兜巾の立ち上がりの調子と、胴へ向かう削りの具合に目を向けてみると、茶碗がどのようにまとめられているかが見えてきます。
添え状や箱書といった付随する情報から先入観をもつ前に、まず自分の目で全体を見て、感じ、考える。そのあとで背景を知る。そうすることで、自分の感覚を軸にした評価ができるようになります。
茶碗を見る目は、すぐに身につくものではありません。けれど、見る順番を整えるだけで、見え方や感じ方は変わります。次に茶碗を拝見する機会があれば、まず全体を、次に景色を、そして最後に高台を見てみてください。同じ茶碗でも前回とは違ったものに見えるかもしれません。
写真:大道雪代
参考文献
『茶の湯をまなぶ本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 1級・2級』淡交社
『茶の湯がわかる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 3級』淡交社
『茶の湯をはじめる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 4級』淡交社
『新版 茶道大辞典』淡交社
『淡交ムック 入門した人、したい人のための 茶道BOOK』淡交社
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