夏でもないのに、なぜ扇子が必要?はじめての茶席で知っておきたい「扇子」の意味

  • 執筆:石塚 修

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「結界」という考え方

みなさんは、神社に行くとしめ縄が張られている意味をご存知ですか。あれは「結界」と言われるものの一例です。つまりは、俗界と聖域とを分けるための目印なのです。

たとえば、『万葉集』に

「あかねさす紫野ゆき標野(しめの)ゆき野守は見ずや君が袖振る」(額田王)

という歌があります。

「標野」とは、まさにしめ縄で区切られた聖域そのものを指すのです。

たとえば、大相撲の横綱のあの綱も、横綱自らが聖なる存在の証しというわけです。

日本の伝統文化や宗教では、この「結界」の思想はよく見うけられます。

 

茶道の扇子が持つ意味

茶道の扇子も、じつは「結界」と同じ意味を持っています。

扇子を自分の前に置くことで、相手との間に「結界」をもうけ、互いを「へだて」ることで「けじめ」をつけているのです。

これは言うなれば自分を謙遜し、相手を敬うための境界線です。

扇子の向こう側が上座、手前側が下座ということになります。

 

落語・歌舞伎に見る扇子の役割

落語や歌舞伎でも、舞台のうえで挨拶をするときに、扇子を自身の前に置きます。

観客よりも高い舞台に居ながらも、扇子を置くことで、観客と演者との間に「結界」をもうけて敬意を表しているのです。

 

なぜ夏以外でも扇子を持つのか

茶室は畳が平たく敷かれているので、なおさら相手と自身との「けじめ」がつけにくい場所となっています。

だからこそ扇子の果たす役割は大きいと言えます。

そのために、夏以外でも扇子を持って茶席に入り、客の挨拶の際には前に置くわけです。

暑い季節についつい茶席扇で仰いでいると、先生から「茶席扇子であおいではいけません」と注意されるのは、それが涼をとるための扇子ではないからなのです。

その場合には、夏用の扇子を用いるべきだとされています。

 

扇子の置き方

前に置く場合は、竹の部分(親骨)を上下にします。

一面にのみ絵などがある場合は、それを閉じた方が自分の方を向くように置きます。

茶の湯ではこうした小さな扇子一本が、 あなたの気持ちを伝え、相手への敬意を形にしてくれる、非言語コミュニケーションのツールとなってくれるのです。

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執筆者プロフィール

石塚 修

いしづか おさむ|1961年 栃木県生まれ。1985年 筑波大学大学院修了。現在、筑波大学人文社会系教授 博士(学術)。専門は茶の湯を中心とした食文化と日本文学との影響関係。著書『『茶人のたしなみ 和歌俳句に学ぶ』(淡交社)『茶の湯ブンガク講座』(淡交社 )『西鶴の文芸と茶の湯』(思文閣出版 )『納豆のはなし-文豪が愛した納豆と日本人のくらし』(大修館書店 )ほか。第25回茶道文化学術奨励賞などを受賞。今日庵茶道教授(茶名 宗修)。裏千家淡交会巡回講師。

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